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アンドラゴジーとは?

アンドラゴジーとは?

生涯学習やリカレント教育を考える時、当然「大人が学習する」という行為自体を捉える必要性がある。米国の教育学者・マルカム=ノールズ(Malcolm Knowles)は「大人の学び(adult education)」に着目し、それを研究・体系化しようと試みた。彼の残した理論体系は、子供を中心にした教育理論である「pedagogy(ペダゴジー)」に対応し、「アンドラゴジー(Andragogy」と呼ばれている。

アンドラゴジーの概要

アンドラゴジーとは、自己主導的な学習を用いた成人学習理論の一つ。アンドラゴジー(Andoragogy)は、ギリシャ語で成人を意味する「aner」と指導を意味する「agogus」を組み合わせた造語。一般的にはアメリカの成人教育の理論家であるマルカム・ノールズが体系化した成人学習理論を指す言葉として用いられている。ノールズが発展させたアンドラゴジーでは、子供教育と成人教育の違いについて、「自己概念」「学習経験」「レディネス」「方向付け」「動機付け」という5つの観点から考察されている。その違いを意識することで、よりよい成人教育の設計に役立つとして注目されている。

<POINT>
1.人間は成熟するにつれて、その自己概念が依存的なものから、自己決定的(self-directing)なものに変化する。
2.人間は成長にしたがって多くの経験をもつ。この経験こそが、学習のための貴重な資源となる。
3.成人の学習へのレディネスは、社会的な発達課題、社会的役割を遂行しようとするところから生じる。
4.成人への学習の方向付けは、問題解決中心、課題達成中心の学習内容編成がより望ましい。
5.成人の学習への動機付けは、自尊心、自己実現などがより重要になる。

(以上、「成人教育の現代的実践」p554より引用)
 

アンドラゴジーの起源

アンドラゴジーの始まりは、19世紀前半のドイツと言われている。当時ドイツで教師をしていたアレクサンダー・カップ氏が、自身が受け持っていた成人学生への教育方法について述べる際に使った。それ以来、このアンドラゴジーという言葉は、一般世間の認知を得られないまま1世紀以上が経過するが、1958年にドイツ人のフランツ・ペゲラー教授が書いた『アンドラゴジー入門‐成人教育の基本問題』という本によって、ヨーロッパで広く認知されるようになった。
その後、このアンドラゴジーという言葉が教育に関する自身の構想を表現するのにぴったりだとして、マルカム・ノールズに引用されることとなる。ノールズの著書である「成人教育の現代的実践―ベダゴジーからアンドラゴジーへ」は、当時の教育関係者たちの間で大きな議論を生んだ。

アンドラゴジーとペタゴジーとの違い

アンドラゴジーと対の概念としてよく使われる言葉に「ペタゴジー」がある。ペタゴジーもまたギリシャ語が基になっており、子供を意味する「paid」と指導を意味する「agogus」を組み合わせた造語。現代では、子供を対象とした教育学を意味する言葉として使われている。

アンドラゴジーの5つの特徴

○自己概念
自己概念とは、「自分がどんな人間であるか?」という問いかけに対して、自身が持っている考えのことを指す。人は成長するにつれて「自分のことは自分で管理できる」という自己概念が強まっていくと言われる。つまり成人の場合、教育者が一方的に情報を発信するだけの教育や、教育者が作り上げたものをただ受けるだけの教育では、学習者の持つ「自分のことは自分で管理できる」という自己概念との間に抵抗感を生む可能性がある。よって、成人学習の場合は、学習者が主導だということを認識してもらえるように設計していく必要がある。
一方でペタゴジーの場合は、「自分のことは自分で管理できる」という自己概念が弱く、より依存的な学習者を前提にしている。そのため、一般的な学校教育では受動的な学習が一般的である。

○経験
生きた年数が長ければ長いほど、それと比例して人生の経験値は大きくなっていく。そのため成人教育では、それぞれが獲得してきた経験があることを前提に、それらを利用することで学習をより効果的にできるとしている。例えば、「新しく学んだ法則に当てはまる過去の体験を思い出してもらい、それをグループ内で共有してもらう」などの学習方法が挙げられる。一方でペタゴジーの場合は、それぞれが持つ経験の量が少ないため、経験の活用にはあまり価値がないとしている。

○レディネス
レディネスとは、「何かを学習する際に必要となる条件や、心身の準備、環境などが整っており、学習の準備ができている状態」を表す言葉。そして、アンドラゴジーのレディネスでは、社会的な役割、つまり職業や役職、職位にフォーカスして学習者の課題を捉えることがポイントになる。一方でペタゴジーの場合は、年齢やカリキュラムにフォーカスすることが重要。心身の成長は個人によって多少の差があるが、年齢によってある程度同じ成長度のグループを構成できすることができる。また、足し算ができた子をグルーピングして引き算を教えるといったように、カリキュラムにフォーカスしたグルーピングも有効だとされている。
○方向付け
「なんのために学習するのか?」という学習の目的に関する観点。成人学習の場合は、学んだ知識やスキルを活用・応用することで、直近の課題を解決することを目的とする学習者が多くなる。そのため、アンドラゴジーでは学習者の目的をしっかりと捉え、そこから逆算して学習を設計することが重要なポイントとなる。一方でペタゴジーの場合は、「教材の内容を理解する」「テストでいい点を取る」といったことが主な目的であり、実生活での活用は目的にあまり含まれていない。

○動機づけ
アンドラゴジーでは、「成人の学習者は、外発的動機よりも内発的動機に基づいている」という前提がある。内発的動機づけとは、興味・関心・趣向・願望といった人の内側にあるものによる動機づけのことです。また、外発的動機づけとは、お金や報酬、罰則、叱責といったものによる動機のことです。成人学習者は、この内発的動機によって学習に参加することが多いと言われています。一方でペタゴジーの場合は、「テストでいい点を取って親にほめられる」ことや、「先生や親に叱られない」ことといった、外発的な動機から学習に参加することが多い。